金星
いや、今はアズミだ!


急いで階段を降りるもの、何人かと肩がぶつかる。


くそ、届かない――。



運がよく、アズミはすぐ前にいたサラリーマンにぶつかり、

階段を転げ落ちることはなかった。


「痛っ!!」


しかし、足のバランスをくずしたためか、

その場に崩れこんでしまった。


「大丈夫ですか?」

「何転んでるんだよ、危ないじゃねーか」


背景になっていたまわりの人々から、

このような言葉が漏れる。



しゃがんだままのアズミのまわりを避けるように、

人の流れが再び動き出した。



「おい……大丈夫か?」



ようやくアズミのもとにたどり着いた俺は、

改札へと向かう人たちからアズミをかばいながら、

手を差し出した。



「潤ちゃ~ん……」


少し目に涙を浮かばせながら俺に手を差し出すアズミ。


これもコイツの演技なのだろうか。
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