金星
雨が降っている今なら、

ここには誰もいないはずだ。


「お前……亜季だろ? もう分かってんだよ」


「…………」

プツッ、ツー、ツー、ツー。


切れた。



『お前、また切ったの?』

『やぁっ……見ないで』



傷が刻まれた手首がフラッシュバックする。



――潤一がいい。



最後に亜季に会ってから、

俺は亜季の番号とアドレスを消去した。


その後何度か亜季らしき番号から着信はあった。


しかし、自分の携帯に登録されている人以外の電話を俺は取らない。


女を切るときはいつもこうやって、上手くやっていたはずだった。
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