さよならアンブレラ
「どどどどうしようカノコちゃん、私好きって言った途端走って逃げてきちゃったああああ」
「逃げてきたの? あ、もしかしてプリントなんやらってそういうこと?」
「いやあのプリント頼まれたのは本当だよお願いだから今は疑わないで混乱してるから、どうしよううう」
 路上で頭を抱えだすみっちゃん。あれみっちゃんってこんなキャラだっけこういうのってもっとおっとりゆっくり進行していくものじゃないんだっけっていうかみっちゃん恋愛スイッチはいると行動力すごいんだあなんかかわいいなっていうかというか相手誰だろう初恋はもうしたんだ、なんて私の頭も混乱しだす。ついさっきまでの破壊音はすでに消え去りまた別のなにかが崩れ落ちる音が聞こえた。人はいないがクラクションの音も混じり、とりあえず彼女を白線の内側に寄せた。
「みっちゃん、みっちゃん、とりあえず落ち着こう。息吐いてー、吸ってー、はいヒッヒッフー」
「カノコちゃんそれ妊婦さんだよ!」
 二人して混乱していると、ふと、頭上から声がかかった。
「なにしてんだぁお前ら」
 …………………。
 …………このお方は。
 …………………ま、
「マチセンっ!?」
「いや違あの、えっと、すぐ帰りますっ」
「待ーてーよー」
 説明しよう。
 マチセンというのは本名町田線香、ひらがな読みでまちだせんか。せんこうと読むと社会復帰できないほどに恐ろしい目に合わされるとか合わされないとか合わされるとか。もはや都市伝説である。
 説明しよう。
 町田線香とは我がクラスの鬼し……いや違う担任の先生で、学年主任でもある妙齢の綺麗な姉ちゃんである。見た目は。
 説明しよう。
 この方の実家はそれはもう厳しいお寺でつまり彼女もわりと厳しくてそりゃもう何かあったときは誰よりも頼れるのだが今はもう午後五時過ぎで初冬に入ろうかという季節だからそれなりに暗くてここは車は多いが人通りの少ない路地で更に彼女の愛すべき生徒の右手にはしっかりと不要物である携帯電話が握られて。
 説明しよう。
 それはつまり、
「おらお前らちょっとこい姉ちゃんが指導してやんよほらほらほらほら積もる話もあるのだろう? こんな時間まで」
 ああ。お顔が引きつってらっしゃいます先生様。
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