エール
君に出会う
都会から離れたこの街にも、生暖かい風が春の匂いを運ぶ。
周りを見渡せばピンク色で染まっていた。
豊の葬式の時にはまだ咲いてなかったのに、いつの間にか満開だった。
それだけ私が、毎日をボーッとしながら過ごして来たという事がわかる。
真新しいブレザーの制服に袖を通して、
お父さんに教わった通りにネクタイを結ぶ。
鏡を見れば、地味でも派手でもない、でも初々しい高校生の姿。
見慣れた豊の制服の女子バージョン。
背中の真ん中まで伸びた黒いストレートの髪の毛は、
中学の時にはポニーテールにしていたが、
今日からは縛らないで流したまま。
本当なら豊と並んで歩くはずだったのに…
そう思いながらも一人でも学校への道のりを進んだ。