双子月

2…自分だらけ 自分独り

「じゃあ、今日は雫からの手紙はないんですか?」


学園祭が終わって数日後の水曜日。

診察で朋香は、まず林先生に学園祭に来てくれたお礼を言った。


そして自分からの学園祭の報告を兼ねた写真入りの手紙を渡すと、林先生が言ったのだ。


「学園祭の前の日の土曜は診察に来なかったんだ。
僕から連絡しようとしたんだけど、電話に出なくてね。
まぁ、たまにそういうとこがあるから、朋香ちゃんはそんなに心配しなくて良いよ。」


「そっかぁ…」

と朋香は呟いた。


でも、いくら林先生が大丈夫とは言ったものの、やはり心配ではある。


そんな朋香を見て、林先生は話題を変えた。

「あの後、どうなったのかな?
辛い想いをしていないかい?
ちゃんと眠って食事はとってる?」

と林先生が聞いた。


「それが…やっぱりどこか様子が変なんです…。
何を聞いても”何でもない”の一点張り。
近寄ろうとしたら、何かと理由を付けて去って行くし…
メールはそっけなくて、電話にも出てくれないから、怖くてもう…」


さっきまで雫の心配をしていた朋香だったが、林先生に聞かれて、ずっと不安に想っていた事を、ポツリポツリと吐き出し始めた。



「あの日…学祭の日に何があったんだろう…。
他の人にはいつも通りの光弘だった。
私にだけ…私にだけ、違うんです。
憎しみとか煩わしさとか、そういう目で見てるんじゃなくて…
何て言うんだろう、こう、蔑むような、畏怖のような…」


朋香の声は、段々と震えていった。


肩を叩こうとした手を振り払われた時の、あの凍て付くような恐怖。

一瞬、見捨てられたのかと想った。

崖の淵ギリギリで立っていたのを、トンっと押されたような。

堕とさないで、と慌てて助けを求めて伸ばした手すら、振り払われたような。



…光弘は、私を見離した?



朋香の中で1つの仮定が浮き上がってきた。

しかし、分からない。

あまりにも突然すぎて、そこに至るまでの過程が分からない。




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