双子月
林先生は少し間をおいて喋り始めた。
「人間の究極の別れって、”死”だと思わない?
自分が死ぬまでに、人は何回も他人の”死”に触れる。
その”死”は永遠なんだ。
どんな風にその相手を想っていたとしても、死んでしまった人からはもう何も反応は返ってこない。
つまり関係が変わる事はもうないんだ。
だけど、生きているうちの別れは?
それは人の心を大きく掻き乱す。
時間が経つ事で風化していく別れもあれば、時間が経つ程に色鮮やかになる別れもある。
大事なのは、想い出を勝手にいじらない事。
いつでも、今を真剣に愛さなくちゃいけない。
過去を愛するのは、過去の中の自分だけで十分だから。
朋香ちゃんは、初めてこのクリニックに来た時の事、覚えてる?」
林先生のちょっと難しい話を頭の中で一生懸命整理しながら聞いている時に、急に話を振られた。
「え…と、あんまり覚えてないです…。
問診表を書いたコトくらいしか…」
朋香はちょっと失礼かなと思いながら答えた。
「朋香ちゃんは、失う事の怖さを知っているんだよ。
別れというモノに対して、非常に過敏だ。
だけれども、周りにとって悪影響がないように自分の辛さを押し殺す時がある。
朋香ちゃんにとって、人生で初めての大きな別れが、ご両親の離婚だった。
だけど、聞き分けの良い子を演じたね。
僕はそこから始まったモノだと考えている。
きっとどんなに些細な別れにでも、過剰反応するだろう。
そして、まだ来てもいない別れに対する恐れも異常に強い。
別れてしまう事を前提に物事を考えている。
誰にだって、支えは必要なんだ。
特に恋人という甘い支えは、良くも悪くも、考え深く人間を変化させる。
そして、『この人だ』と見つけてしまったら、もう一直線。
恋は盲目とはよく言ったもので、『この人以上はいない、永遠の運命の相手だ』と思い込む。
そこまでのめり込む事が悪いとは言わない。
ただ、その想い入れが強い分、失った時の事を考えてしまう。
そして本当に失った時、生きているうちなら変えられる関係を、まるで化石のように…
大昔の産物のように抱え込んでしまう。
そして嘆き悲しむ日々を送り、もう誰もいらないと言い出したりする。」
「人間の究極の別れって、”死”だと思わない?
自分が死ぬまでに、人は何回も他人の”死”に触れる。
その”死”は永遠なんだ。
どんな風にその相手を想っていたとしても、死んでしまった人からはもう何も反応は返ってこない。
つまり関係が変わる事はもうないんだ。
だけど、生きているうちの別れは?
それは人の心を大きく掻き乱す。
時間が経つ事で風化していく別れもあれば、時間が経つ程に色鮮やかになる別れもある。
大事なのは、想い出を勝手にいじらない事。
いつでも、今を真剣に愛さなくちゃいけない。
過去を愛するのは、過去の中の自分だけで十分だから。
朋香ちゃんは、初めてこのクリニックに来た時の事、覚えてる?」
林先生のちょっと難しい話を頭の中で一生懸命整理しながら聞いている時に、急に話を振られた。
「え…と、あんまり覚えてないです…。
問診表を書いたコトくらいしか…」
朋香はちょっと失礼かなと思いながら答えた。
「朋香ちゃんは、失う事の怖さを知っているんだよ。
別れというモノに対して、非常に過敏だ。
だけれども、周りにとって悪影響がないように自分の辛さを押し殺す時がある。
朋香ちゃんにとって、人生で初めての大きな別れが、ご両親の離婚だった。
だけど、聞き分けの良い子を演じたね。
僕はそこから始まったモノだと考えている。
きっとどんなに些細な別れにでも、過剰反応するだろう。
そして、まだ来てもいない別れに対する恐れも異常に強い。
別れてしまう事を前提に物事を考えている。
誰にだって、支えは必要なんだ。
特に恋人という甘い支えは、良くも悪くも、考え深く人間を変化させる。
そして、『この人だ』と見つけてしまったら、もう一直線。
恋は盲目とはよく言ったもので、『この人以上はいない、永遠の運命の相手だ』と思い込む。
そこまでのめり込む事が悪いとは言わない。
ただ、その想い入れが強い分、失った時の事を考えてしまう。
そして本当に失った時、生きているうちなら変えられる関係を、まるで化石のように…
大昔の産物のように抱え込んでしまう。
そして嘆き悲しむ日々を送り、もう誰もいらないと言い出したりする。」