双子月

4…舞うは火の粉と桜の花びら

瑠璃子は抱き合っていた雄一から1歩離れた。

何かを言おうとしても、何も言葉が浮かんでこない。

真朝だって社会人の剛と付き合っているのだから、隠しててごめんと笑って言えば済むだろう。

一瞬でそこまで計算したのに、剛の言葉が全てを打ち砕いた。



「雄一…お前…」



剛も雄一も青ざめて、それこそ2人共、声が出ない。

やはり沈黙を破ったのは真朝だった。


「え、剛、この人と知り合いなの?
ってか、今、奥さんと子供って…」

さすがの真朝も、冗談が通る空気ではない事を読んでいた。


「…あ、うん。
同じ会社の同期でさ…
同期と言っても、雄一は優秀だからオレらとは違う部署に配属されて、あまり会社じゃ顔は合わせないんだけど…」


剛も真面目に、言葉を慎重に選びながら答える。


「それで、オレら同期の中でも1番に結婚したんだ…。
去年の6月に…それから子供もこの間生まれたばっかりで…。
相手は1つ下の後輩で、結婚を機に退職したんだよ。」



真朝はカッとなって、雄一に向かって叫んだ。


「貴方!
いくら瑠璃子が人が良いからって、騙して手玉に取るなんて最低!」


剛も真朝同様、

「お前、あんなに幸せそうにしてたじゃないか!
子供が出来た時なんて、定時になったら飛んで帰ってたって聞いたぞ…。
そんなお前が、こんな風に大学生と遊ぶなんて…」

と必死だった。



しかし、それを遮ったのは瑠璃子だった。


「止めて、分かってるわ!
それ以上言わないで!
そして雄一さんを責めないで。
私は…私から誘ったの。
結婚している事も全部知ってて、私から!
雄一さんは悪くない、悪いのは…
雄一さんの本当の幸せを壊しているのは…私なの…」


涙ぐんで両手をぐっと握っている。


「瑠璃子…」


真朝はこんな必死な瑠璃子を初めて見る。


「それでも…それでも、私…
…雄一さんの傍にいたいの…」


そして、こんなにも女性としての激しい一面も、初めて見た。


< 109 / 287 >

この作品をシェア

pagetop