双子月
「お前が大学生の子と付き合っているとは聞いていたが、まさか瑠璃ちゃんの友達だったとはね…。
さすがの俺も、そこまで考えていなかったよ…」


どうやら口の中を切ったらしく、雄一は唇の血を拭いながら言った。


「何でそう冷静なんだ…?
お前、すごい幸せそうだったじゃないか…
あれは嘘なのか!?
美和子ちゃんと優ちゃんの事、愛してないのかよ!?」


剛も力任せに思いっきり殴ったので、右手首を痛めているようだった。



「万人受けして、誰からも心から慕われるお前には分からないよ!
俺の周りなんて、心を許して近付いてくる人間なんてほんの僅かだ…
お前みたいに”好きと愛”の違いが分かる程、人徳に溢れてないんだよ!
だから、ほんの僅かな人間関係の中で、大切なモノは大切としか言えない。
”好きと愛”の違いが俺にはないんだ!
美和子の事も優の事も、瑠璃ちゃんの事も、『愛してる』としか言いようがないんだ!
そこに違いがあるというなら、誰か教えてくれよ…」


雄一は一気にまくし立てると、肩で息をしながら、ゆっくり立ち上がろうとした。

瑠璃子がすぐに駆け寄って、ハンカチで雄一の口元の血を拭きながら、立ち上がる雄一を支えた。



真朝も剛の傍に寄って、右手首を取った。

捻ったのか、少し赤く腫れてきている気がする。


「剛…」

と真朝は声をかけたが、次は剛がぼう然としていた。




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