双子月
真朝は明日の支障にならない程度に打ち上げに顔を出すと言って、演劇仲間との待ち合わせ場所に向かった。


瑠璃子は隣の市の実家から電車で通っている。

しかし、どう見ても青ざめている瑠璃子を1人では帰せないと、美穂が池田さんに電話をして車で迎えに来てもらった。


朋香は皆を見送ってから携帯を開いた。

光弘からの連絡はなかった。


(片付けが忙しいのかな、打ち上げもあるのかもしれないし…
全部を私に報告する義務なんてないもんね…)


一応、『帰ります』とだけ光弘にメールを打って、朋香は家に帰った。


大学近くのアパートまで歩いて10分程度。

朋香は今日1日の事を振り返っていた。


(劇は…アレはウケてたのかな?
皆、衣装も似合ってて上手だったなぁ~
光弘のスコート姿も似合ってた、ふふ…
あの写真、焼き増ししてもらお!
絶対、光弘がイヤがるんだから…)


「光弘…」


気が付けば、アパートの前に着いていた。



鍵をバッグから取り出して、誰も待っていない部屋の中に向かって、

「ただいま。」

と言う。


「光弘…」

朋香は繰り返し呟いた。



たった半日。

たった半日、光弘に避けられただけで、どこからこんなに涙が溢れてくるのだろうか?

原因が分かっていれば、もう少し楽だったのだろうか?


荷物を適当に放り投げて、ベッドに身を投げた。

シーツの端を握りながら、うつ伏せになって泣いた。


普段喧嘩なんかしないから、こんな気持ちを朋香は知らない。

涙が落ちて落ちて、枕をぐっしょり濡らした。


(そうか、うつ伏せになってるから涙が余計に落ちるんだ)


朋香は仰向けになった。

それでも、”光弘”という単語が頭をよぎるだけで、涙が頬を伝って、結局は枕まで行き着く。


(涙も重力には逆らえないんだ…)


止まらない、止められない涙を、窓から欠け始めている半月が覗き込んでいた。





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