双子月
”カチン”


雄一の口の中で、何か金属音がした。



その瞬間、瑠璃子は助手席から飛び降りた。

雄一が口の中の物を出してみると、瑠璃子の右手の薬指にはめたはずの指輪だった。



「瑠璃ちゃ…」



「雄一さん、私達、今日で終わりにしましょう。
私はそのつもりだったの。
最高の想い出、最高の幸せの瞬間を最後にくれてありがとう。

さっきはさすがに決心が鈍ったわ。
でもね、駄目なの…
雄一さんが良くても、私が良くても、例え奥さんが良くても…
…子供さんが幸せになれない…

朋香が…そうなの…

私は大切な雄一さんの、大切な子供さんだからこそ、私も大事に想える。
素直で明るく、両親からの愛情を独り占めにして元気に育って欲しいの。
私なんかの存在のせいで、他人を憎むような人間になって欲しくないの。

決して忘れないわ。
この先どんな人と巡り逢っても、こんなにも倒錯して、自分と周りを見失う程の恋愛は出来ない。
一生…一生、1番は貴方だけよ。
だけど雄一さんも、本当の1番は誰なのか、気付く時が来るわ。
目が覚める時が。

『愛してる』
…『愛してる』わ…

さようなら、私の愛しい人。」



そう言って、瑠璃子は目を疑うような美しい顔で微笑んだ。


そして助手席のドアをバタンと閉めて、家の中に駆け込んで行った。



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