双子月
水曜の昼。


診察が終わった朋香は、明日の午前中に瑠璃子の予約を取った事をメールで教えた。


そして、自分の事とも向き合わなければならないと思った。

冬休み、光弘は多分ファミレスでバイトをしているだろう。


『光弘、ちゃんと話がしたいです…
明日の午後、うちに来れませんか?』


とメールを送った。

メールを打つ手が震えているのが自分でも分かった。

今まで光弘と、本当に喧嘩の1つもしてこなかったから、初めてこんな恐怖に襲われる。


すると、電話が鳴った。

朋香は光弘からかと思って、一瞬、身を硬くした。


けれど画面を見ると、瑠璃子からだった。

あぁ、明日のコトかな、と思って朋香が出ると、


『朋香、ねぇ、何だか血が止まらないの…
どうしてかなぁ…?』


と、抑揚のない声で瑠璃子が尋ねてきた。

朋香が1番危惧していた事が起こっていたのだ。


『瑠璃子、今すぐ行くから!
ご両親は?
タオルで脇のところをきつく縛ってもらって、腕を心臓より高い位置に上げるの!
何で斬った?
カッター?
包丁?
カミソリ?
今すぐソレらを捨てて!
イイ?
今すぐ行くから、絶対に大人しくしてるのよ!?』



瑠璃子の返事も待たずに、朋香は通話終了ボタンを押した。

コートを羽織って家を飛び出す。

駅まで自転車を走らせ、切符を買って急いで快速に乗った。


(瑠璃子…やっぱり…無事でいて…)


初めて腕を斬る人は力加減が分からない。

よって、深く斬りすぎるか、浅い傷を無数に付けるかのどちらかだ。

電話をかけてこれるくらいだから、大量失血ではないだろう。


祈る気持ちで朋香は手を組んで、目をぎゅっと瞑った。

リスカは癖になるから厄介なのだ。


瑠璃子の実家の最寄の駅に着いて電車を降りると、朋香は電話をかけた。


『はい、林クリニックです』


『あ、有田朋香です!
林先生お願いします』



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