双子月
母親は一瞬何の事だか分からず、きょとんとしていた。

そして部屋の中を覗くと、確かに瑠璃子がボンヤリとベッドの上にいて、何か赤黒いモノが布団を汚している事に気付いた。


「る…り…?」

部屋の入り口で突っ立っていたが、次の瞬間、母親がパニックを起こした。


「瑠璃子、何をやっているの!?」


と慌てて部屋に入って、瑠璃子に駆け寄ろうとした。

朋香はそれを力いっぱい引き止めた。


「おば様、落ち着いてください!
後から説明しますから!
先に止血をしないと…
タオルを、タオルをください!
この位なら命に別状はないですから、落ち着いて!」


朋香の必死の叫び声で、母親は我に返った。


「わ、分かったわ、タオルね…!」

パタパタと1階に下りて行き、すぐにタオルを数枚持って上がってきた。


朋香はそのタオルを縦半分に切り裂いて、瑠璃子の左脇の部分をきつく縛った。

それから次に肘の少し下を縛って、残りのタオルで今出ている血を丁寧に拭き取った。

そして綺麗なタオルで傷口をクルクルと包んで、ゴムで止めた。



「瑠璃子、もう大丈夫だからね…
林先生が待ってるよ…」


止血を終えた朋香は、瑠璃子にそう言った。

瑠璃子は聞いているのか聞いていないのか分からなかったが、とりあえず頷いてくれた。


「おば様、私が通ってる心療内科が大学の近くにあるんです。
本当は明日の朝に新患の予約を入れていたんですけど、さっき瑠璃子から電話があって、腕を斬っているというコトが分かったので、ココに来る前にクリニックに電話をして、今から急患扱いで診てもらえるように手配しました。
私も着いて行きますから、今すぐに出れますか?」

と朋香が真剣な表情で言った。


「心療内科…
精神科って事よね?
何で瑠璃子がそんな…」


これが普通の親の反応だと思う。

うちの子はそんな病気じゃないと、受け入れきれない。


「おば様、心療内科と言ってもいろいろあるんです。
ただ、時期を間違うと余計大変なコトになりがちです。
瑠璃子の場合、今じゃないと手遅れになるコトだって十分あるんです。
事情は後でお話しますから…」


落ち着かせるようになだめるように、朋香はゆっくりそう言った。


「わ、分かったわ、すぐに車を出すわ…」

「はい、私は瑠璃子と一緒に下に下りますから…」


そう言って朋香はゆっくりと瑠璃子を立ち上がらせた。



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