双子月

9…抜け出したい嵐

バイトが終わって携帯のメールを見た光弘は溜息を付いた。


『ちゃんと話がしたいです』


…そりゃそうだよな…

今まで1度も喧嘩らしい喧嘩なんて、した事がない。


喧嘩をするまでもなく、朋香を大切にしてきた。

病気の事も、それが障害だとか、逆に愛を深めるモノだとか、そういう風に考えた事もない。

甘やかしていたつもりもない。

お互いがお互いを尊重し合って、大切に想えて、愛しく想えて一緒にいるのだ。



ただ、この間の学園祭。

あの鏡の迷路で初めて朋香の主治医と2人きりで話をした時。

あれから自分の頭の中の回線がおかしくなった気がする。


俺は本当に朋香を見てきたのか?
朋香は本当に俺を見てきたのか?


『ちゃんと話がしたい』


自分だってそうだ。

このモヤモヤを取り払って、また肩を並べて笑い合いたい。

もう離れたいとは想わない。



だけど、分からない。

『ちゃんと』

何が『ちゃんと』なのか分からない。


形にならないドロドロした感情が、全身を巡っている感じがする。


朋香にはこんな気持ち、分からないだろうな…。

でもお互い様だ。

俺だって朋香の気持ちは分からないんだから…。


そこで光弘はふと気付いた。



―対等―



そうか、対等なんだ、同じなんだ。


『何かが分からないから、ちゃんと話がしたい』


この気持ちは一緒なんだ。

『ちゃんと』は話せないかもしれない。

だけど、今までぶつかり合った事がないので、良い機会なのかもしれない。


もしかしたら上っ面だけで、怖くて踏み込めていない、見なければならないのに見えないフリをしていた、深い部分に触れる時が来たのかもしれない。

そこを乗り越えてこそ、本当にお互いを尊重し、大切にし、愛しく想える恋人同士になれるのではないか。




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