双子月
すると、雨がポツポツ降り出した。


女性はダンボールの中に子猫をポンッと投げ戻して、顔に付いた血を、血が付いた手で拭い、更にパジャマにこすり付けたりしながら、病棟に入って行った。



光弘はフラフラしながら、そのダンボールに近寄った。

3日前に自分が買った子猫用のミルクが、あの後、使われた形跡はなかった。



光弘は手で植え込みの奥の硬い土を掘り、子猫を埋めた。

気付くと雨は土砂降りになっていた。



頬を伝っているのは、きっと雨。

あぁ、あの女性は泣いたりしていないだろうか…?



その後の事は、朦朧として、覚えていない。



雨に当たったので余計に熱が上がり、光弘はその後、5日間も大学を休んだ。


やっと体調が戻り、大学に出られるようになった時には既に講義が始まっていた。


休んでいた分のノートは大輔に写させてもらった。

大輔の性格からして、とても分かりやすくまとめてあるとは、お世辞にも言えたモノではなかったが、まだ他に頼れる人もいなかったので、これでも感謝はしている。




(あれ、松木美穂、中川瑠璃子、山口真朝のグループに1人増えてる…
あぁ、もしかして入学初日から休んでいた有田朋香かな?)

と、笑っているその女性の後姿を光弘は見つめていた。



ふとこちらを見たその女性の顔を見て、光弘は一瞬息を呑んだ。



子猫を慈しむように、だが物として扱うような矛盾を抱いた、あの女性だったからだ。


しかし、その女性はふぃっとまた友達の方を向き、笑い話に花を咲かせ始めた。



(そっか、俺の事、知らないんだっけ…
まぁ、いいや…
あまり関わり合いにならない方が良さそうだな)



そう思った光弘は、この出来事を忘れていた。




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