双子月
そう、忘れていた。


それから数ヵ月後のあの夏の日だって、この出来事を想い出してはいなかった。


通学途中に、朋香が座り込んでいた。


心理学専攻は人数が少ない事もあって、皆すぐに打ち解け合って仲良くなり、名前で呼び合うようになっていた。



「朋香…?」


後ろから声をかけると、朋香が振り向いた。


「み、光弘…」


「どうしたんだよ、お前、真っ青じゃないか!
具合いが悪いのか?」


「頭痛と…吐き気と…目眩と…
世界がグルグル回る…
…気持ち悪い…」


と朋香が、光弘のポロシャツにしがみ付いた。



とりあえず光弘は、朋香を木陰まで誘導して、コンビニで買っておいたミネラルウォーターをタオルにぶっかけて、朋香のおでこに当てた。


ここに居たって仕方ないと思った光弘は、朋香を背負って大学への坂を登り始めた。


「光弘…イイよ…
重いし…悪い…」


朋香が力ない声で言う。


「バカ、お前なんか軽くて仕方ねぇよ。
ちゃんと食べてないんじゃないか?
夏バテかな?
とりあえず保健室に連れて行くけど、病院の方が良いんかな?」


「病院…
今、行ってきた…」


「え、何て?
病院行ったんなら無理して学校来るなよ、休めよ。」


と光弘が汗を流しながら言うと、光弘の頬に水滴が落ちてきた。


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