双子月
土曜の夜、22時。


林クリニックは珍しく、休診日は日曜だけで、土曜も20時まで開いている。

病気を背負いながらも世の中で働いている人達に配慮しての事だ。


もちろん、毎日智也1人で朝から晩まで働いていては、智也自身が潰れてしまう。

一応、引退という形をとった前院長、つまり智也の父親が週に2回、診察に入る事になっている。


土曜は智也が仕事の日だ。

今日は特に急患もなく、スムーズに20時に終わった。


しかし、土曜は22時を過ぎてからが智也にとって本番と言っても良い。

そう、例の彼女との時間だ。



「朋香ちゃんに渡したよ。」


雫のアパートで、智也は雫の黒くて長い髪を撫でながら言った。


「知ってるわ。
私、朋香のコトなら何でも分かるもの…」


智也はクスっと笑って、そうだったねと答えた。


「智也から見て、朋香の反応はどうだった?」

「僕の前で手紙を開けはしなかったし、その後、何も言ってこない。
次の水曜の診察時に何か言ってくるかもしれないね。
文通する事に関しては、何だか楽しみにしているようだよ。
やっぱり、似た境遇同士って言葉が効いたのかもしれないね。」


雫は、智也が撫でている方と逆側の自分の髪をいじっている。


「ねぇ、智也。
私のコト、浮気者だと怒る?」


雫はこういう時でも、相手の顔色を伺うような目遣いなどはしない。


「いや、怒らないよ。
むしろ、僕の方が『彼』に殴られるんじゃないかと内心ドキドキしてる。」


智也も本気では言っていない。


2人はこういう人間なのだ。

だから一緒にいられるのかもしれない。

一緒にいる理由は様々だけれども。



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