双子月
相手は軟弱そうな奴らで、案外あっさりと引き下がった。

光弘も今更ながらドキドキしてきて、1つ深く息を吐いた。


「瑠璃子、大丈夫か?」

と光弘が瑠璃子の方を見ると、瑠璃子は地面に座り込んで真っ青な顔をしていた。


「おい、大丈夫か?
もうあいつらはいなくなったから、な?
何か暖かい飲み物でも買ってこようか?」


光弘が対応に困っていると、瑠璃子は光弘のコートの裾を掴んだ。

その手は震えている。


(そういえば、朋香の話じゃ瑠璃子は心療内科を受診したって…
何でこんな所に1人でいるんだ?)


と心配になった光弘はしゃがみ込んで、瑠璃子と目線の高さを合わせた。


「るり…」



光弘が言い終わるより早く、瑠璃子が光弘に抱き付いてきた。


「ゆ…さん…」


「え…?」


「雄一…さん、雄一さん…
怖かっ…、また助けてくれたのね…」

と泣きながら、光弘の首にしがみ付いて繰り返す。


「ちょ、瑠璃子、しっかりしろよ!
俺だよ、光弘だよ!」

光弘が瑠璃子の肩に手を置いて、また目を合わせるようにゆっくりと引き離した。


「え…みつ…ひ…ろ…?」


瑠璃子がボンヤリと答えたその時だった。



バサッ



何かが落ちた音がした。

2人共、その音がした方へと顔を向けた。


「と…」


朋香が青ざめた表情で立っていた。

さっきの音は手に持っていたバッグを落とした音だったのだろう。


「朋香…」


光弘と瑠璃子は声を合わせて呟いた。



賑わう街の中で、その3人だけが、世界の空気が止まったみたいに固まっていた。



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