双子月
『朋香は俺がいないと駄目だなぁ』
『朋香ばかり俺に寄っかかってきて、俺が苦しい時は何をしてくれるんだよ』
『あぁ、この1歩手前で止めておけば良かったんだ』
『こんな病気の女、面倒くさい』



光弘は何で私を選んだ?
あの夏、あの坂、あの汗、あの涙。
私は何で光弘を選んだ?



あの時助けてくれたのが光弘じゃなく他の人だったら、私はその人を選んでいた?
あの時助けたのが私じゃなく他の人だったら、光弘はその人を選んでいた?



『苦しい時に傍にいて優しくしてもらえるのは普通の事…
大事なのは普段から優しくしてくれるかどうかという事…
そうでなければ続かない』



一緒にいる安心感よりも、失ってしまったらどうしようという、未だ見ぬ先の不安に駆られている。



手に入れている感触が確かにあるからこそ、それが砂のように指の隙間から零れ堕ちる時が来る事を考えてしまって怖いのだ。




朋香の頭の中を走馬灯のように駆け巡る不安要素。

だけど朋香は、それらに気付いてすらいない。


心と身体が時を止められたかのようだった。

なのに、何故か足は軽い。



目の前は真っ暗だ。

だけど軽々と人混みを避けて走れる。


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