双子月

4…1年前の冬(前)

あれは去年の冬だから、ちょうど1年位前になる。


美穂はその日、国際弁護士である両親と共に、披露宴に出席していた。

母親と同じ事務所の後輩の結婚式だ。


それはそれは豪華なモノだった。

しかし、美穂にとっては楽しくも何ともない。


確かに花嫁の純白のウエディングドレス姿には見惚れたし、色鮮やかなフレンチも中々の美味だった。

一通りの礼儀作法を幼い頃から体に叩き込まれているので、難なく軽やかにフレンチも食べてみせる。


ただ、それだけ。

母親の事務所関係者に挨拶して回ったりして、“良い娘”を演じるのにも飽きてきた頃だった。


「美穂もいつかはこうやってお嫁にいってしまうんだなぁ…」


父親が目を少し赤らめて言う。


「やだ、あなたったら。
まだ20歳にもなっていないのに。
ねぇ、美穂?」


母親が口にハンカチを当てながら美穂の方を見る。


「いくら一人娘だからって、そんな事言っちゃって。
私が一生独身でも良いの?」


美穂は軽く拗ね気味に言ってみせた。


結婚しなかったらしなかったで、孫の顔が見たいだの何だの言うくせに…。

大体、母親が言うように、大学生活も始まったばかり。

何て気の早い父親なんだろう。


「ちょっと、お手洗いに行ってきます。」


美穂はそう言って席を立った。

外の空気が吸いたくてたまらない。



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