双子月
『故 溝口通様(享年十七歳)』


葬式会場からは、単調なお経の声、お腹の底に響く木魚の音、鼻にツンとくる線香の匂い、そして嗚咽を漏らす大勢の人のざわめきが、途切れる事なく漏れてきていた。



喪主は通と朋香の実の父親。


仕事関係で慰問に訪れた人が多く、朋香達の祖母と父親は、多くの人に頭を下げっぱなしだった。



祖父は跡継ぎだった通の死にショックを受けて、寝込んでしまっていた。


朋香の母親と有田も、もちろん葬式に参列していた。


母親は訃報を聞いた時から、食事も喉を通らない程に泣き伏せており、有田に懸命に支えられて、やっと立っていられる位だった。



そんなこんなで大人達は慌しく、誰も朋香に気を配っていられる余裕がなかったのだ。






風が柔らかく吹く。



白。
黒。。
白。。。
黒。。。。



葬式の垂れ幕が、その風ではためく。



白。
黒。。
白。。。
黒。。。。
白。。。。。
黒。。。。。。
黒。。。。。。。




あの人の服もあの人の服もあの人の服も私の服も黒。




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