双子月
葬式から数日後。


朋香は大学近くのアパートで1人暮らしをする為の荷造りをしていた。

(もう、通ってば、結局約束をほったらかして連絡もしてこないんだから…)

と、1人、心の中でブツブツ怒っていた。



「ママ、このダンボールは割れ物だから。」

朋香は、よっこらせとダンボールをリビングに運んだ。



母親はとても心配そうにしていた。

あの葬式の日以来、朋香が通の事を口にしないばかりか、あれだけ仲が良かったのに、悲しんだりする様子が少しも見られないからだ。


「朋香、本当に1人暮らしするの…?
ここから十分通えるじゃない、心配なのよ…」

と母親は朋香に言った。


「前々から決めてたコトだし。
ママも、”お義父さん”がいるから大丈夫でしょ。」


朋香は有田の事を、いつも皮肉を込めて”お義父さん”と呼ぶ。



「そうね…
じゃあ、これ、持って行きなさい。
溝口のパパが、1人暮らしするならって、朋香の分もくれたの。」


母親は朋香に、黒い額縁に入った写真をそっと渡した。


「何コレ、通?
そんな改まって写真貰わなくても、アルバム持っていくし。」

と、朋香は不思議そうな顔をした。



母親は、それ以上にもっと不思議な顔をした。


朋香に差し出したのは、通の遺影だ。

普通の写真とは意味が違う。

何かがおかしい。


「あ、そっか。
今年は通が受験生になるから今までみたいに逢えなくなっちゃうもんね。
せっかくだから持っていくよ。」

と朋香は笑ってその遺影を受け取った。



母親は目眩を感じた。

「朋香、通は死…」

と言いかけたが、朋香の顔を見ると言葉が続かなかった。


「ん、何?
私、まだ荷造りがあるから部屋に戻るね。」



その日の夜。

母親は有田に昼間の事を話した。


「僕もおかしいと思っていたんだ…。
数日は泣き喚いて過ごすかと思ったのに、少しも通君の事に触れない。」


有田も深刻な顔をして話していた時。

朋香の部屋から大きな音が聞こえた。


2人がビックリして朋香の部屋に駆け付けると、朋香が床に座り込んで丸くなっていた。


「通、通、どうして遠くに逝っちゃったの?
大丈夫、私もすぐに傍に逝ってあげるからね…」


朋香は真っ暗な部屋の中、通の遺影を胸に抱き、カッターで首筋を斬っていた。


「何してるの!?」

「朋香ちゃん!」


2人は夜中にも関わらず、大声を出してパニックに陥った。

慌てて部屋に入り、朋香を押さえつけた。


「朋香、何て事を…!」


母親が震えながら朋香の手を握った。



「…『朋香』?
『朋香』は通の死を認めきれずに眠っているわ。
だから『私』が代わりに呼ばれたの。」



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