双子月
大体の事情は、母親が電話で予約を入れる時に説明していたので、林先生はまず朋香に話しかけた。


「はじめまして、朋香ちゃん。
僕はこのクリニックの院長を務めている林智也といいます。
こういう所は初めてかな?」


「初めてです。
何でこんな所に来なきゃいけないのか分かりません…」

と朋香はちょっと不機嫌そうに答えた。


「今日は少し、貴女の心の欠片を知りたくて。
その前に体調はどうですか?
ご飯や睡眠はちゃんと取れていますか?」


朋香は少し考えた。


「そういえば…寝てるような寝てないような…
あんまり覚えてない…」


「そうですか。
最近、何か悲しい事とかあったのかな?」


その問いにも朋香は少し考え込んだけど、


「いえ、特にないです。」

と、サラリとした表情で答えた。


隣で聞いていた両親が、思わず何か言いそうになった。


「お父さんとお母さんに聞いたんだけど、最近、朋香ちゃんは生活のリズムが崩れているようだね。
特に睡眠がきちんと取れていないと、これから始まる大学生活にも支障が出てくるし、1人暮らしも上手くいかないと思う。
睡眠はお薬で多少コントロール出来るけど、根本的な部分を解決しないと、いつまで経っても治らないんだ。
そこで少しの間、入院する事を勧めたいんだけど、どうかな?」


「え、入院~?」


朋香は露骨に嫌な顔をした。

何で心療内科なんかに入院しなきゃいけないのか、理由が分からない。


「朋香、このままだと1人暮らしなんて、お父さんもママも認められないの。
しっかりと心と身体を癒してから、大学生活を始めて欲しいの。」


身体はともかく、心を癒されなければならない意味が分からない。


だけど、確かにここ数日、何とも言いようのない嫌な感じが漠然とする。


首筋や左手首の痛みだって、何となく不安を駆り立てる。


そこで、朋香は渋々、入院する事を承諾した。



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