双子月
その時。


「熱っ!」


雫はホットココアを零してしまった。

入院着やベッドに茶色い痕が滲み込んでいく。


「雫、大丈夫?
私、看護師さん呼んでくる!」


真朝はとっさの出来事だったので、1番に思い浮かんだのがその事だった。

何も深く考えずに、とにかく看護師を呼ぼうと慌てて病室を出て行った。



病室に取り残された剛は、

「タオルある?」

と雫に尋ねた。


よくよく見ると、かなり入院着にまでココアが滲み込んでいるので、熱いだろう。

すぐに着替えさせなくてはいけない。


「あ、洋服の替えはある?
オレ、部屋の外に出てるから着替えなよ。
はい、タオル濡らしたから、よく拭いて。」


と雫にタオルを差し出した。


すると雫は、

「自分じゃ拭けない、熱い。」

と言って、入院着のボタンを外し始めた。



剛は慌てて、

「ちょ、ちょっと待って!
真朝が戻ってくるから、真朝に頼めよ!」

と、雫を止めようとした。


廊下からパタパタと足音が聞こえる。

雫はその音を確認しながら、タオルを持っている剛を思いっきり引っ張った。


2人してベッドに倒れ込む。

ボタンを外して胸元がはだけている雫の上に、剛の影が落ちている。


そして例によって、雫はまた相手の唇を奪った。

タイミングは計算通り。


「手が空いてる看護師さんが見つからないよ~」

と言って入って来た真朝は、バッチリそのシーンを目撃した。



「剛?」

「真朝?」


2人共、何が起こっているのか一瞬分からなかった。




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