双子月
するとまたしても雫が、真朝から見えないように自分の方に剛を手繰り寄せ、自分の頬に剛の唇が当たるように仕掛けた。


真朝はちょっと困ったような顔をして、

「えっと、私、もっかい看護師さんを探してくるね…」

と部屋を出て行った。



「真朝、待って…!」

と追いかけようとする剛の腕を力強く握り、雫は嘲った。


「真朝より、『朋香』より、『私』の方が“イイ”よ?」



剛は、それ以上に強い力で雫の腕を振り払った。

「何考えてるんだよ!
『お前』は真朝の友達だろ?
一体、何が目的で、こんなややこしい事をするんだ!
『朋香ちゃん』は光弘君一筋じゃないか。
ほら、この写真、学祭の時。
光弘君の喫茶店で撮った2人、幸せそうだろ?
これは…『朋香ちゃん』は『お前』なんだよ!」



剛は力の限り、声を荒げて言った。

雫はそれでも涼しい顔をして答えた。


「やっぱりね。
理解しているような顔をしていたけど、結局は真朝からの付け焼刃。
その真朝だって本当は分かっていない。
誰も分かっていない。
ソレなら『私』は『私』の気の済むように、『朋香』が築き上げた大事なモノを壊すだけよ。
『私』は『私』の新しい関係を創るの。」


「『お前』は『朋香ちゃん』が全うに生きていく為のお荷物に過ぎないんだよ!
『お前』の思い通りに、簡単に人間関係なんて変わるかよ!」

と言う剛に向かって、


「もう7割は私の気の済むように進んでいるの。
後はアナタ達と、光弘、それで大体満足だわ。
貴方は必ず、私の想う通りに動く。」

と雫は言った。


「動くもんかよ、真朝だって事情を説明すれば分かってくれる!」


あくまでもそう言い切る頑固な剛に、雫はあるモノを取り出して見せた。




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