双子月
瑠璃子は様子見が終わって既に退院していた。

雄一との件で生きる気力を失っていたり、光弘の交通事故の件で興奮したりと、目まぐるしく瑠璃子の精神状態は変化していたが、薬の効き目もあって落ち着きを取り戻し、瑠璃子なりに冷静に今回の一連の出来事を整理出来るようになったので、林先生が退院を認めた。


その代わり、週に1回、林クリニックでの診察を約束した。




瑠璃子が退院するその日、荷物をまとめている時に剛が瑠璃子を訪ねてきた。


「瑠璃ちゃん、今日退院なんだ。
間に合って良かった…」

と、剛は大きなクマのぬいぐるみを瑠璃子に手渡した。


「これ、お見舞いの品を預かってきたんだ…」



瑠璃子は黙ってそれを受け取った。

抱きしめると、あの人の匂いがした。


剛が言わなくても、瑠璃子が聞かなくても、分かるモノは分かってしまう。

瑠璃子はその匂いに包まれながら目を閉じていたが、涙を流す事もなく、しっかりと目を開けて微笑んだ。


「剛さん、ありがとう。
今日は真朝は一緒じゃないの?」

という瑠璃子の問いに、剛はちょっと困ったような顔をして答えた。


「オレらも…崩れかけてしまっているんだ…。
『雫』は思ったより、強かであざといね。
全てを壊してしまうつもりだよ、『あの子』は。
何も知らないのは、瑠璃ちゃんと光弘君くらいだと思う。
光弘君を…支えてあげてね…」


「え、知らないって、何をですか?
私が光弘の傍にいたら、もっと『雫』が…
『朋香』が傷付いてしまうわ…」


瑠璃子は戸惑うように言った。


「…おそらく…
いや、もうオレの中では確信に近いんだけど…
『雫』は君達以外、全員に手を出している。
『雫』は傷付かない。
『あの子』は逆に周りを傷付けようとしているんだ。
誰も『彼女』に逆らえない。
だから、光弘君を守ってあげて…」


それだけ言うと、剛は、

「待ってる、行かなくちゃ。
それと…真朝の事もよろしく頼むね…」

と瑠璃子の病室を後にした。



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