双子月
数日後のクリスマスイブ。

松葉杖を許可された光弘は、待ちきれなくてすぐに病室を抜け出し、病院内を歩き回ってみた。


やはり自分の足で歩けるのは良い。

人間はそんな当たり前の事に気付く為に、この位の代償を払わなければならない悲しい生き物だ。


(やっぱ1回位は朋香…『雫』のとこに顔出して、ちゃんと話をしなきゃだよな)

と光弘は思った。


最近、自分の所に誰もお見舞いに来てくれなくて暇をしていた。

『雫』もそうかもしれない。


光弘はおずおずと精神科病棟の方に向かった。



すると、看護師が、

「毎日お見舞いに来るなんて感心ね~。
ラブラブじゃない。
それにあの綺麗な女の子も、社会人の男の人も欠かさず来るわよね。
有田さんはよっぽど大事にされているのね、羨ましいわ~」

と楽し気に話しているのが聞こえた。


光弘が近寄っていくと、看護師の話相手が大輔だという事に気付いた。



「…大輔?」

光弘は呆然とその名を口にした。



大輔はその声の主に気付くと、

「み、光弘…!」

と驚くと同時に、青ざめて変な汗が出てくるのを感じた。


看護師は既にその場を立ち去っていて、2人が廊下の真ん中で突っ立っている状態だった。



「毎日…『雫』のお見舞いに…来てるのか?
さっきの話じゃ…美穂と、もう1人誰かも…?」


やっと口を開いた光弘のその台詞の裏には


『俺の所には誰も来ないのに?』

という含みがあった。


大輔は言葉に出来なくて、ただただ意味もなく首を横に振るだけだった。





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