双子月
その時、ちょうど瑠璃子が息を切らして走ってきた。

「光弘…病室にいないから探したのよ…」

「瑠璃子…」

光弘の姿を見つけて、瑠璃子は安心して肩で息を吐いた。



しかし、大輔が精神科病棟にいるのを見て、瑠璃子は剛が言っていた事を思い出し、ぞっとした。

(本当に…本当に『雫』は壊そうとしているの?)



瑠璃子は光弘に対しても責任を感じていた。



この場で大輔と喧嘩になって真実を知ってしまったら…

今、光弘を守れるのは私しかいない!



そう想った瑠璃子は、光弘に、

「病棟に帰りましょう。
まだこんなに歩き回っちゃ駄目よ…
さ、掴まって。」


と、半ば強引に光弘を連れて行こうとした。


「待てよ、俺はまだ大輔と話が…」


光弘はそう言いかけたが、大輔は目をぎゅっと瞑って、その場から逃げるように走り去って行った。


「大輔…さっきの看護師の話も…
一体どうなってんだよ…」


光弘は訳が分からずにうなだれ、瑠璃子の誘導に黙って従い、自分の部屋へと帰った。



ベッドに腰掛けてもボンヤリと意識がまとまっていないような光弘を見て、瑠璃子はゆっくりと身体を横にさせ、自分はもう1度、精神科病棟に戻った。


雫の部屋を開けようとすると、中からヒソヒソと女性の嘲い声が聞こえた。

少しだけドアを開けて覗いてみると、雫の髪をいじっている剛にkissをしていた。


瑠璃子は息を呑んだ。


その僅かな隙間だったのに、雫は鋭い目線で瑠璃子を捕らえた。


抱きしめている剛の肩越しに、

『光弘のとこに帰りなよ』

と言っているかのようだった。


瑠璃子は頭から血の気が引くのを感じて、光弘の病室に戻った。

そして光弘の手を取り、両手で包んで祈りを捧げるように指を絡めた。


「光弘、私が付いてるからね…」


光弘はその祈りの両手に軽く口付けをした。


「瑠璃子、ありがとう。
だけど俺が祈るのは、全てが元通りになるようにだ。
俺は約束したんだ。
”朋香”を宇宙一の幸せ者にするって。
例え、今は『雫』が表に出てきているとしても、それが”朋香”の一部である限り、俺は正面から向き合って受け止めるよ。
その位の覚悟で今まで”朋香”とは付き合ってきたつもりだ。
林先生の言葉にカッとなってしまったけど、冷静に考えると、やっぱり俺が『朋香』と『雫』を支えてあげたいんだ。」


光弘は力強くそう言った。


「もちろん、瑠璃子の事も支えるよ。
俺達、皆、仲間じゃないか。」




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