双子月
瑠璃子は胸が痛むのを感じた。


「何で…
『雫』は…光弘を裏切ったんだよ…?
今だって剛さんと、大輔と、美穂と…
身体を求め合っているのに…
傷付くのは光弘なのに…
私だったら光弘の事、傷付けないのに…」


「…え?
身体を…?」


光弘は瑠璃子の方を見た。

瑠璃子は、ハッと我に返った。


光弘が知ったら傷付くから、自分の心の中に留めておこうと、さっき決めたばかりなのに。


いや、それ以上に…違う。

この気持ちは一体何?


いいや、知っている。

想い人がいる人を、愛しく想ってしまう気持ち。


あの時は遠慮がちだった。

自分は被害者ではなく、むしろ加害者だったから。


でも今は愛しい気持ちと哀れむ気持ちが混じっていて、私達は被害者なのだと、奪うなら今だと、瑠璃子の心のどこかが叫んでいる。


(どこまでも醜く汚い私の欲望…)


瑠璃子は自分に幻滅しながらも、光弘を守るという大義名分の元、自分の想いを無意識に正当化させていた。



「そうよ、『雫』は私と光弘以外の全てを歪んだ形で愛してる。
私と光弘にだけ、見せ付けるように、嘲笑うかのように…。
ゆっくりと壊そうとしてる。
そんな『雫』でも…
…そんな”朋香”でも、光弘は許せるの?」


瑠璃子の問いに、光弘は迷いなく答えた。


「この目で確かめる、それからだ。
俺は”朋香”との未来の為に、今、この現実を受け止めなきゃいけないんだ。
真正面からぶつかるって、あの事故の前に約束したんだ。」


「…じゃあ、その目で確かめてみれば良いわ…」


ベッドから起き上がって、小さな紙袋を手に持ち、光弘は、


「行ってくるよ。」

と瑠璃子の背中に告げて、松葉杖で『雫』のいる精神科病棟に再び向かった。




< 215 / 287 >

この作品をシェア

pagetop