双子月
意気込んではみたものの、いざ病室の前に来ると心臓がバクバク音を立てているのが分かる。

光弘は一呼吸置いて、ドアをノックした。


どうぞ、と言われて光弘は、松葉杖で自分の身体を支えながら、上手にドアを開けた。


窓は開いていて、冬とは思えない優しい風がカーテンをはためかせていた。


温もりのある日差しが、ベッドのリクライニングで背中を起こして座っているその人の髪を一段とキラキラさせている。


そう、栗毛色の肩まである髪。

この2年間、ずっと見慣れてきた、何度も何度も撫でてあげた髪。


「光弘、もうココまで松葉杖で来れるんだ、スゴイね。」


そう微笑んだのは、”朋香”じゃないか


「こっち来て座りなよ、キツイでしょ?」

ベッドから降りて、パイプ椅子を用意してあげた。


「とも…か?」

椅子に腰掛けながら、光弘は疑問系でその名を呼んだ。


「ん、なぁに?」

ベッドに戻った”朋香”は、首を傾げながら、ふわっと笑った。


「あ…いや、いろんな事が山積みでさ…。
ちゃんと逢うのも久々だから緊張しちゃって。
はは、らしくないよな…」


光弘は頭を掻きながら言った。



「光弘、ごめんね?
私、よく覚えてないんだけど、光弘を困らせたのだけは分かる。
でも…生きてて良かった…
どうして通が死んだコトをずっと忘れていたのか分からないけど、光弘はこうして生き残ってくれた。
喧嘩したまま永遠に離れ離れになっていたら、ソレこそ悔やんでも悔やみきれない。
だから…ごめんね。
それから…ありがとう…」


その”朋香”の台詞に、光弘は今まで抑えていた気持ちが涙となって溢れ出た。

松葉杖がコトンと床に落ちる。




< 216 / 287 >

この作品をシェア

pagetop