双子月
光弘はベッドに倒れ掛かるように身体全体を朋香に乗せて、強く強く抱きしめた。

光弘から水滴が零れ落ちて、朋香の頬を濡らす。


「光弘、汗、掻きすぎ…」


あの夏の台詞を、今度は朋香がそのまま返した。


「”朋香”が、どんな病気でも良い…
無意識に他の奴を求めていても良い…
でも1番は俺だ…
この愛しさと苦しさを、一生分け合って生きていこうよ…
その為に俺らは出逢ったんだから…」


光弘は身体を起こして、袖で涙を拭った。


そして、先日父親に頼んでおいた小さな紙袋から、小さな箱を取り出した。

赤いリボンで綺麗にラッピングされてある。


「これ、1日早いけど…」


光弘は朋香の両手の中にそっと置いた。

朋香はしばらく黙ってそれを見つめていたが、


「開けてもイイ?」

と遠慮がちに光弘に聞いた。


「もちろんだよ。」


光弘はその遠慮がちな朋香がとても可愛く見えて、笑いながら答えた。


赤いリボンをシュルっとほどいて箱を開けると、また小さな箱が出てきた。

映画などで見る、紺色で蝶番になっていて、パコっという音を立てて開く箱。


開けた瞬間、ふわっと良い香りがした。

キラキラ光る石。


朋香は慌てて顔を上げて、光弘を見た。



光弘はゆっくりとその箱から中身を取り出した。

そして朋香の左手を取って、


「これ、ムーンストーンなんだ。
香水でほのかにラベンダーの香りを付けてもらってる。
月と香り、”朋香”にピッタリだろ?
本当はまだ早いからネックレスにしようと想ったんだけど…
嫌なんだ、”朋香”が俺の傍で息をしていない事が。
こんな小さな石で縛り付けられるなら、”朋香”の過去も現在も未来も俺のモノになるなら、まだ早いなんて後悔はしない。
”有田朋香さん”、一生、一緒に笑って一緒に泣いて、一緒に宇宙一の幸せ者になりましょう。
俺と…俺を選んでください。」



そう言うと、薬指にムーンストーンの指輪をはめた。

部屋中にラベンダーの香りが広がる。



むせかえるほどの甘い香りに、朋香は幸せの味を感じた。



「私からアナタへの愛の誓いは、明日の聖夜、月が見える場所で…」

朋香はムーンストーンが輝く左手で、光弘の頬を触り、耳元で囁いた。





< 217 / 287 >

この作品をシェア

pagetop