双子月
水曜の朝8時半。

「雫ちゃんとは違って、可愛らしい封筒を選んだね。」


林先生が笑いながら受け取る。


「笑い事じゃないですよ。
何て書こうか、すっごく悩んだんだから。
レポートよりずっと大変だったんですよ!」


朋香が少し口を尖らせて言う。


「ごめんごめん。
で、雫ちゃんは何て書いていたの?」


林先生が尋ねた時、朋香は少し動揺した。

この1週間、ほとんどこの事を考えていたと言っても良い。



”『雫』は何故『朋香』のコトを知っていると言うのか”

”下の名前で呼び合う2人の関係は何なのだろうか”



主治医と患者が個人的に付き合ったりするのは、社会的にどうなのだろう。

朋香はそこまでよく知らない。

しかし、林先生は躊躇う事なく、手紙の中身を聞いてきた。

何も隠すような事はないのだろうか。

雫の一方的な態度なのだろうか。


「雫は…私のコト知ってるって…。
私の診察は水曜の朝で、雫は土曜の夜に時々来るだけなら、ココで顔を合わせたコトもないはずなのに…」


林先生はボールペンを手で弄びながら「ん~」と困ったように笑った。


「似てる…とでも言えば良いのかな。
君達は双子みたいなモノなんだ。
お互いに足りないところを補い合える…
ある意味、2人で1つが完成するようなバランスって感じかな。
雫は不思議な子でね、僕以外に頼れる人がいないんだ。
独りでは立っていられない。
だから朋香ちゃんを紹介したんだ。」


…分かるようで分からない。



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