双子月
ガチャ


ドアが開いた音がしたので瑠璃子は振り返った。

入院着の上に黒いショールを羽織っている黒髪の女性。



この冷たくて張り詰めた空気の中、今にも半月になりそうな月をバックに凛として立っている『雫』はとても美しく見えたが、月の逆光でその表情が読み取れなかったのも事実だ。


ゆっくり、1歩ずつ近付いて来る。


瑠璃子は後ろに歩みを進めたかったが、身体が言う事を聞かない。

あまりの寒さと恐怖に身体がかじかんで、その場に足が凍り付いてしまったかのようだ。



ついに『雫』は瑠璃子の目の前まで来た。

左手をすっと差し出す。


瑠璃子は叩かれるのかと思って一瞬目を瞑ったが、その気配はない。


そーっと目を開けてみると、『雫』の左手の薬指に、月の光を見事に反射した石が埋め込まれている指輪がはめてある。

その色の形容しがたい事といったら。



「雫、それ…」


「光弘に貰ったの。
どう?
貴女は『私』にだけは負けないって顔してるけど、光弘は『私』を1番に愛してくれてるのよ。
他の皆もそう、貴女なら知ってるでしょ。
『私』を中心に今、全ては回ってるの。
欲しいモノは全部、この小さな両手の中。」


パタパタとショールが風になびく。

整形外科病棟の屋上。



「月がこんなに近く…
ねぇ、見て。
このムーンストーン…
よくよく月に照らして見てみると、瑠璃色に見えない?」


『雫』は指輪を外して月にかざした。


そして、光弘がくれた箱にラッピングされていた赤いリボンに指輪を通して、瑠璃子の首の後ろに回した。



(…首、絞められる!?)


しかし瑠璃子は身動きが取れなかった。





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