双子月
首を絞められる覚悟でいた瑠璃子だったが、雫が1歩下がった時に、胸元に違和感があるのを感じた。


さっきの赤いリボンに通されたムーンストーンの指輪がぶら下がっている。

どうやら首の後ろでリボンを結んだようだ。


「…?」


瑠璃子は意味が分からず雫の方を見た。


雫はニッコリ微笑んで、


「コレが『私』から光弘へのクリスマスプレゼント。
最期のプレゼント。
『私』はもう光弘なんていらないから、瑠璃子にあげるわ。
バカよね、ちょっと『朋香』のフリをしてやったら、信じちゃうんだもの。
『私』と『朋香』の区別も付けられない人間なんて、コレから先、『私』には必要ないもの。
そう、そして”コレから先”は『私達』には必要ない。」


「雫…?」


今になって、雫が裸足である事に気付いた。

雫は髪とショールをなびかせながら、フェンスに近付いていく。



ガシャン
ガシャン



フェンスを登る雫。


フェンスの上には有刺鉄線が張り巡らされていたが、雫はお構いなく、その有刺鉄線をも握り、登り詰めた。

手から流れる紅い血を舐めながら、キリストの棘の冠みたい、と雫は嘲った。


フェンスの上の有刺鉄線に座って瑠璃子を見下ろしている雫の背後では、黒い髪とショールがヒラヒラ舞っていて、悪魔が羽を広げているように見えた。


「雫…?」


瑠璃子が、雫の足元に近付いた時。


「全てを『私』のせいにして。
『私』は幸せだったわ。
皆にお礼を言っておいて。
何よりも誰よりも、光弘を幸せにしてあげてね。」



とんっ



雫は瑠璃子の肩を押した。


反動で、自分の身体の重心は後ろに移った。

その瞬間、”雫”はウィッグを引っ張って投げ捨てた。




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