双子月

10…幸・遺・色

有田・溝口共に、林先生に挨拶をしていた。


「本当にお世話になりました。
こういう結果になってしまったけれど、あの子は…
”あの子達”はきっと、普通の人達が過ごす時間の中で感じる幸せを、20年という短い時間の中で凝縮して味わえたんだと想います。
きっと通と再会して、今度は3人で、また空の上で仲良く幸せな時間を過ごすでしょう。」


林先生は、丁寧にお辞儀を返した。


自分の不甲斐無さに憤りを感じ、拳には力が入っていた。

”お前のせいだ”と罵られた方が楽なのかもしれない。


『朋香』とも『雫』とも、最期の言葉を交わせなかったどころか、温かみのあるその頬に触る事すら、拝む事すら出来なかった。



訃報を聞き、急いで出張先から戻ろうとしたが、真冬の雪国の交通事情がそれを許さなかったのだ。

ようやく帰って来れた時には、全てが終わっていた。

これも『朋香』と『雫』の、最期のイタズラだったのだろうか?



林先生のそのような表情を見て、朋香の母親がまた穏やかに言った。


「林先生、先程も言ったように、あの子は、いや、”あの子達”は、そういう星の元に産まれたんだと想います。
…違う、私がそういう星の元に産み落としてしまったんです。
全ての根源は私達…私にあるのです。
先生は最善を尽くして下さったと、私達は感謝しています。
先生もいつかは、ご自分のお子さんを持つ事でしょう。
そしたらきっと、今の私達の気持ちが分かるはずです。
医者としてでなく、親としての気持ちが…」


林先生は、逆に諭されてしまった。


「『朋香さん』も『雫さん』も…一生懸命でした。
誰よりも何よりも純粋に”生きたい”と願っていて、とても綺麗でした。
こんなにも”生”を私達に教えてくれた『彼女達』を…
私は忘れる事はないでしょう。」


林先生は真っ直ぐ顔を上げて言った。


「そう、誰かが忘れないでいてくれる限り、”あの子達”は永遠です。
お葬式にあれだけの方々が集まって下さって、”あの子達”の為に胸を痛めてくれた。
それだけで私達は”あの子達”がどんなに生前、人徳に恵まれた子だったのかを知る事が出来たのです。
親として、これほど誇りに想う事はありません。」


有田も溝口も、本当に誇らし気な顔をしていた。




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