双子月
朋香のアパートは引き払う事になった。


約2年住んでいた事もあり、プライベートな物が多い。

家具・家電は業者に引き取ってもらう事にした。


遺品整理には、光弘・美穂・瑠璃子・真朝が立ち会った。



「私達は家族で過ごした想い出と、その証である、ほんの少しの写真で良いの。
アナタ達は、それぞれ想い出の物を選びなさい。」

と、朋香の母親が優しく言った。



「私…『雫』の物を頂いても良いですか?」

美穂が尋ねた。


「そうね、美穂ちゃんが1番『雫』と仲良くしてくれたものね。
多分そんなに多くはないだろうけど、貰ってあげて?」



そう言われて美穂は、林先生が『雫』の為に用意した黒の服を1枚1枚、丁寧に三段ボックスの一番下から取り出し、その残り香を確かめるように抱きしめた。


そして、あのウィッグ。

何度も撫でたサラサラの黒髪。


作り物なので最初から温かみなどあるはずはなかったが、今となっては、一筋一筋が冷たさを帯びているのがはっきり分かる。

その時、初めて美穂は涙を流した。


「雫…朋香…」


小さな声で呟いたが、皆、聞こえている。

だけど、そっとしておいた。




真朝は、スケッチブックを選んだ。

最期に一緒に創り上げた学園祭の舞台。

その背景用のラフが、たくさん詰まっていた。

時折、退屈な講義中に、2人でコソコソと落描きしたモノが残っている。


『この教授、何かアライグマに似てなーい?』

と真朝が書き込んだ横に、

『こんな感じ?』

と、アライグマがスーツを着て講義しているイラストを、朋香が描いていた。



「すっごい、やっぱ似てる…」

真朝は涙声で笑いながら呟いた。




「瑠璃子は何にするの?」

と真朝は涙に気付かれないように尋ねた。



「私は…もう…
貰っているから…」

瑠璃子は遠慮がちに俯いて言った。




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