双子月
瑠璃子と真朝が言い合いをしている。

まぁ、珍しくない光景だが、一応どうしたのか尋ねてみた。


「真朝ってば、ひよこ饅頭を頭から食べるって言うんだよ!
酷くない!?
先に頭を食べちゃったら、ひよこの形をしてる意味がないじゃない。
あの可愛らしい顔は最後まで残しておくべきよ。」


「バッカじゃん?
頭を最後まで残してたら、逆に可哀相じゃんか。
じわじわとその存在を消していくなんて。
先にサックリと逝かせてあげるのがせめてもの優しさだよ!」


2人が声を揃えて言う。


「朋香はどっち派!?」


…く、くだらない…

朋香は、朝から一気に疲れた気分になった。


「大体、何でひよこの形をしてるんだろうね。
そう言われてみれば、たい焼きも…」


朋香がそう呟くと、再び瑠璃子と真朝の間で論争が勃発した。


「たい焼きこそは尻尾から食べるでしょ?」


「い~や、頭からに決まってる!」


ここで美穂の爆弾発言。


「そういえば私、たい焼きって食べた事ないわ。」


一同、言葉に詰まってしまった。


さすがお嬢様…


美穂の一言で、この話題は一気に熱が冷めた。

元々どうでもいい事なのだけれど。


でもまぁ、面白いといえば面白い。

今度、雫への手紙に書いてみよう。




…そこでふと、朋香は気付いた。


自分の頭の中に、確かに雫の存在がある事に。


林先生が言っていた意味が少し分かった気がする。


誰にも気に留めてもらえないのは、とても寂しい。

誰かが自分のコトを考えてくれていると想うだけで、嬉しくなる。



朋香には光弘と、この3人という大切な人達が、大切にしてくれる人達がいる。

例え、ひよこ饅頭の食べ方なんかで言い合いをしていようとも、かけがえのない存在だ。



光弘と美穂は病気の事を知って、傍にいてくれている。

瑠璃子と真朝は病気の事を知らないからこそ、素のままで朋香に接してくれている。


何てありがたいコトなんだろう


雫が何を求めているのかを、何となく掴めた気がする。



これから先、手紙を交換していく中で、雫のコトを知りたいし、自分のコトを知ってもらおう



相手を知るという事は簡単なようで難しい。

言葉にすると余計に難しい。

要するに、感覚的なモノなのだ。


生きてさえいれば、相手さえいれば、それだけで知る事が出来るモノはたくさんある。


「よし、美穂の為に今日はたい焼きを食べに行こう。
何でも知るコトが、経験するコトが大事だよ!」


朋香は3人にそう言った。




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