双子月
毎週水曜の朝は朋香の診察日である。

予約制ではないこの心療内科では、開院の8時半より前に来て順番を取らないと、9時に始まる1限の講義に間に合わない。

いつもなら1番にクリニックに着いて名前を書くのに、そう、今朝は魔物に負けてしまったのだ。


(林先生は1人に15分以上かけるもんなぁ…まぁ、ソコがイイんだけど)


と、朋香は1人、納得したように首を縦に振った。

先程の男性が、また朋香をチラっと見る。


無理もない。

朋香はいつも1番にクリニックに来て、他の患者で待合室が賑わってくる前には病院を後にしている。


1年以上通い慣れているクリニックだが、顔見知りの他患などいない。

ましてや、患者のほとんどが50代過ぎなので、朋香のように若い女性は珍しがられるのだ。


これが土曜となると話は違うらしい。

仕事が休みの土曜は、逆に若い女性で溢れ返っていると、唯一この待合室で顔見知りの受付看護師が前にそう教えてくれた。


「ありがとうございました。」


診察室からおじいさんが出て来た。

ドアを閉めながら部屋の中に向かってお礼を言っている。

おじいさんは受付で支払いを済ませて紙切れをもらい、クリニックを出て行った。


「山内さん、どうぞ~」


林先生の声が部屋の中からする。

おばあさんがよっこらせと立ち上がり、満面の笑みで、

「林先生、おはようございます~」

と、診察室へ入って行った。



(個人情報保護法はどうなってんのよ、先生…)



朋香は心の中で、笑いながらツッコミを入れた。


時計は既に9時を回っていたけれど、イチゴ大福と引き換えに出席点は確保されている。

「ま、今更慌てても仕方ないよね…」

と朋香は、ソファに背中を深く預けた。





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