双子月
「きゃっ、イヤだ、手ぇ離さないでっ!!!」

朋香の叫び声がスケートリンクに響き渡る。



朋香は運動はそこそこ出来るのだが、自身で制御出来ないモノには弱い。

ジェットコースターなどのスピードが出るモノも苦手だ。

スケートも然りで、まず不安定さに加えて、スイスイ滑るとなると訳が分からなくなる。

今もそう、スピードが出てきて、自分で自分を制御出来なくなってきた。



「そんなに騒ぐなって。
ちゃんと手ぇ繋いでるから。」

「早すぎっ、もうちょっとゆっくり滑ってよ~!」


半分涙目で、朋香は光弘に訴える。

そんな朋香が可愛くて仕方ない。

ついついイジワルをしたくなるから、手は繋いでいるものの、光弘は結構なスピードを出して朋香を引っ張っていた。


「そろそろ休憩にしようよ…」

「朋香、座ってて良いよ?
俺、ちょっと一滑りしてくるから。」

「はぁい、いってらっしゃい。」



朋香は1人リンクから出て、暖房のある部屋に入った。

ガラス張りの部屋なのでリンクの様子がよく見える。


(光弘、楽しそう)


自然と朋香の顔も綻ぶ。

がんがんスピードを出してリンクを軽く2周したかと思えば、次はバックでクネクネ滑っている。

朋香から見ると、中々の達人技だ。

光弘は運動系はそつなくこなす。


(苦手なモノなんてあるのかなぁ…?)


朋香からすれば羨ましい限りだ。

(自分もだが)それなりの国立大に通っているし、運動も出来て、見た目も悪くない。

朋香をとても大切にしてくれるし、周りからの信頼も厚い。


(私にはもったいない人かもしれない…)


そんな事を考えていたら、今朝のように気分が堕ちてきた。

自分で自分の気分を堕としているとは情けない。

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