双子月
「アアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ~~~~~~~!!!!」


部屋中に響き渡る叫び声。


「イヤ、イヤ、イヤ、イヤ!
何もかもイヤ!!」


「消えてなくなれ!
死んでしまえ!!」



頭を振り回す。

黒くて長い髪がグチャグチャになる。


床にペタンと座り込み、手で床をドンドン叩いている。



ほんの一瞬。

智也がトイレに行ったその一瞬だった。


「雫!」


慌ててトイレから出てきた智也は、雫の名前を呼んだ。


日曜の夜、ここは雫の家。

1人暮らしのアパートだ。


2階でなかったのが、せめてもの救い。

ここまで床を叩いていれば、下の住人から苦情が来ていただろう。

まぁ、隣からクレームが来てもおかしくない程、雫は叫び、取り乱しているけれど。


「雫、大丈夫だよ、落ち着いて。」


後ろからそっと抱きしめる。


「ア…アあ…あぁ…」


雫が声にならない声を絞り出す。

右手にはカッターを握っている。

ゆっくりと、雫の手からカッターを取る。


左手首を確かめてみると、間に合ったようだ。

新しい傷…少なくとも今付けた傷はなかった。


念のため、黒くて長い髪を撫でつつ、雫の細い首筋も確かめた。

こちらには、古い古い傷痕しか残っていない。

智也はとりあえず、まずは自分を落ち着かせた。








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