双子月
「…さん、有田朋香さ~ん」


朋香は、ハッと我に返った。

我に返ったというよりは、目を覚ました。

いつの間にか、うたた寝をして意識を手放していたようだ。


「は、はいっ」


朋香は慌ててバッグを掴んで診察室に入った。


待合室はおじさん・おばさん・おじいさん・おばあさんで、ごった返していた。

ちらほら若い男女もいる。


(私と同じ位かな…)


まだボンヤリとした意識の中で、そんな事を考えていた。


「すみません、林先生!」


朋香は診察室に入って先生の顔を見る間もなく、頭を下げた。


「いえいえ、珍しいね、朋香ちゃん。」


頭を上げると、林先生が微笑んでいた。


(相変わらず整った顔だよなぁ…)


朋香はちょっと照れ笑いを返す。



林先生は若くして、この林クリニックを継いだ。

若いと言っても、この世界。

もう30代半ばに足を突っ込んでいる。


しかし、ぱっちり二重の丸い目や、あどけない笑顔、言ってしまえば童顔なのだが、要するに30代に見えない上に、上の中くらいの格好良さ。


(そりゃ“山内さん”も顔がニヤけるよねぇ、おばさんキラーだ…)


これで一クリニックの院長という肩書き。


結婚していてもおかしくないのに…


朋香は心の中で、余計なお世話を焼いた。



「水曜は朝1番に朋香ちゃんの笑顔を見ないと、1日が始まらないよ。」


と、顔が顔なら台詞も台詞だ。


「さぁ座って。
大学にも行かなきゃでしょ。
先週1週間、調子はどうでしたか?」


いつもの問診が始まった。


(私も水曜の朝1番はコレでなくちゃ調子が狂っちゃうよ)


…既に11時前だという事を知らずに、朋香は呑気にそんな事を考えていた。





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