双子月
その女性は、またしても唇の端を上げて、妖艶な笑みを零しながら言った。

「あの時…あそこのホテルで逢って以来だね。
改めまして、雫です。」


「…美穂です。
電話ではどなたかと思いました。
この数週間、気にはなっていたんですけど、何も貴女へと繋がるモノがなくて。
でも貴女の顔、しっかりと覚えています。
ホテルで逢った、あの一瞬と同じ…」


と、美穂は雫とは対照的に、軽く爽やかに笑ってみせた。

彼女がさっきの電話の時よりも落ち着いているようで、とりあえず安心した。


「何のお構いも出来ないけど、お茶くらい出すわ。
ベッドに座ってて。」

と雫は言ってキッチンへ行き、コーヒーを淹れてくれた。



その後、2人はベッドに座って喋ったり、無言の時を過ごしたりした。

喋るといっても、今となっては何を話したのかすら覚えていないくらい、他愛のない事だ。


雫がどういうつもりなのかは分からないけれど、美穂は妙に安堵感を覚えた。


雫といると、他のどの友達といる時よりも心地良い。

ほんのさっき知り逢ったばかりなのに。


ベッドに2人寝転がって天井を眺めながら、しばらく黙っていた。


そのうち、美穂は自分でも無意識のうちに雫の唇に軽くkissをした。

雫はただ黙ってそれを受け入れた。


嫌悪感だとか羞恥心だとか、雫の目からは何も感情が読み取れなかった。

その目を見て、美穂は今までに感じた事のないような気持ちになった。


身体中に電気が走るような感覚。

守りたいような、壊したいような、独り占めしたいような…


そんな子供じみた感情を美穂は素直に認めた。

それだけ、雫の無の目には、無の力があったように想う。



そう、美穂の隠した写真立てには、雫が写っているのだった。



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