双子月
朋香は病院に着いて受付を済ませた。

もちろん今日も1番だ。


診察室に入って、林先生に挨拶をした。


「はい、雫への手紙です!」


と真っ先に、林先生に手紙を渡す。

ニコニコしている朋香を見て、林先生は不思議に思った。


「どうしたの?
何か機嫌が良さそうだね。
雫ちゃんとの文通にも慣れてきたのかな?」


「ソレもあるんですけど、今、学園祭に向けて演劇サークルの手伝いをしてるんです。
私は背景とかが担当で、友達2人が出演、美穂が衣装とかで。
皆で力を合わせて何か創るって、とても楽しいコトですね!
久々に感じました。」


「へぇ、それは良い事だね。
でも無理してないかい?」


林先生は少し心配そうに聞いたが、朋香の顔色や声を伺う限り、心配する程の事ではなさそうだ。


「全然大丈夫です!
そうそう、それでですね。
手紙にも書いてるんだけど、雫を学園祭に誘おうと想って。
演劇だけでも見て欲しいなぁって。」


朋香は、もう全てが上手くいくような気分に自然となっていた。

だから、林先生がちょっと驚いたような顔をしたのを見て、何だろうと不思議に思った。



「なるほどね、でもどうかなぁ。
雫ちゃんは人混みとか苦手だからなぁ…」


林先生の言葉を聞いて、朋香は、ハッとした。

そこまで配慮していなかった事を失敗したというような、あからさまに落ち込んだ顔になってしまった。

自分の気分が良かったので、当たり前のように、雫にもそのような気持ちで手紙を書いた。


それを見て、林先生も少し「しまった」と思い、慌てて付け足した。


「ごめんごめん、がっかりさせて。
分かったよ、僕からも説得してみる。
学園祭はいつなんだい?」


まだ落ち込んだままの声色で、

「再来週の日曜日です…」

と朋香は下を向いたまま答えた。


すると林先生は、わざとらしく手を叩いて、

「あぁ、日曜日か。
なら話は簡単だ。
僕が雫ちゃんを連れて行っても良いかい?」

と言った。



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