双子月
溝口家は、両親・朋香・通の4人家族だった。


父親は「溝口TOY・コーポレーション」という、代々続く大手玩具メーカーの跡取り社長で、言ってみれば、朋香も美穂の家に負けず劣らず、裕福な家の生まれなのだ。


朋香はパパっ子で、仕事柄ほとんど家にいない父親に対して寂しさを募らせる事も度々あったが、子供心なりに忙しいのだという事を理解しており、手のかかる子供ではなかった。


それに何より、1つ年下の通とものすごく仲が良かった。

朋香は姉として通を守ろうと、通は男として朋香を守ろうと、お互いを尊重し合い、喧嘩をした事など、片手で数えられる程しか記憶にない。


父親も母親もそんな子供達が可愛くて、忙しいながらも何かにつけて、家族の触れ合いの時間を大切にしていた。


典型的な幸せ一家だったのだ。


しかし、今想えば、朋香と通が小学校も高学年に近付いた頃辺りから、家の中の空気が微妙に変わっていた。


相変わらず、忙しいながらも笑顔の父親。

相変わらず、社交界で戸惑いながらも笑顔の母親。


しかし、これが血が繋がっている故の勘とでも言うべきか。

朋香と通は、薄っすらと気付いていた。

父親と母親の間で交わされる笑顔が、段々と表面上のモノになってきているという事に。


それでも2人は知らん顔をしていた。


夫婦間の問題で、自分達は口を出すべきではないと。

ただ、これから先、何があっても2人は決して離れないと。



そして、数年後、2人の予感は現実のモノとなってしまう。


それは朋香が中学2年生、通が中学1年生の時だった。

久しぶりに家族4人で外食に出かけた。

慣れないフレンチに格闘する朋香と通を見て、両親は笑っていた。

ただそれだけで幸せだった。


デザートも食べ終わり、夜景を観るために父親の運転で、近くの観光スポットに寄った。


「パパ、ココに来るのも久しぶりだね!」


朋香は父親と2人、海の方を見ていた。


「そうだね、確か通の七五三が終わった後に来て以来かな。
あれから何年経ったのか…
お前達は本当に素直で良い子に育った、パパの自慢の子供達だよ。」


と、朋香の頭を撫でながら父親は言った。


朋香はその誉め言葉よりも、久々に父親に頭を撫でてもらえた事の方が何倍も嬉しかった。

そして横目で、通と母親が山側を見ながら話しているのを確認した。


それが家族4人の、最後の微笑ましい想い出。



< 55 / 287 >

この作品をシェア

pagetop