双子月
家に帰り着くと、リビングのソファに父親と母親が並んで座り、その向かい側に朋香と通が座らされた。

父親は肘を膝の上に乗せて手を組み、少し上目遣いで子供達を見た。


「朋香、通、よく聞いて欲しい…」


ついにこの時が来たか、と2人は息を呑んだ。


「パパとママは今まで2人で一緒に、一生懸命お前達に愛情を注いできたつもりだ。
それは伝わっているかな?」


父親の問いかけに、2人は無言で頷いた。


「だけれどね、これからは2人で一緒に何かをするという事が出来なくなってしまうんだ。」


母親が、握っていた拳を更に強く握り締めた。


「パパは今でも、そしてこれからもずっと、誰よりも1番にママと朋香と通を愛し続ける。
この気持ちに嘘はない。
だけど、ママの中で、優先順位が変わってしまったんだ。」


2人は驚いて母親の方を見た。

母親は今にも涙ぐみそうに下を向いている。


「ママはもちろん、朋香と通を愛している。
でも、人生のパートナーとして、パパよりも、もっと良い人に巡り逢えたんだ。
ママを責めちゃいけないよ。
パパは仕事が忙しくて、ママやお前達に寂しい想いをさせてきた。
だけど、パパが埋めきれなかったママの心の隙間を埋めてくれる人が、他にいたんだ。」



自分が不倫をしたという事実。

それをオブラートに包んで優しく庇うように語る旦那と、驚きながらも必死に聞こうとしている子供達の様子に、逆に自分がいたたまれなくなった。


ついに泣き出し、嗚咽を漏らしながら、ポツリポツリと話し始めた。


「あぁ、許してちょうだい…。
ママもアナタ達を愛しているし、パパの事も大事よ。
でもそれを差し置いてでも、一緒になりたい人に出逢ってしまったの。
この幸せな生活を壊して、皆を傷付けてまでも手に入れたい…
もっともっと上の幸せを知ってしまったの…」


朋香と通は、お互いに震える手をテーブルの下で繋いでいた。

そして顔を見合わせて、アイコンタクトだけで意思の疎通をはかった。


「パパ、ママ、一緒の家で暮らそうと離れて暮らそうと、私達4人は世界でたった4人だけの血の繋がった家族だっていうコトに変わりはないと想うの。
パパとママの幸せはパパとママで決めたらイイと思うよ。
私達は大丈夫、ね、通?」


「もちろんだよ。
僕もパパとママ、朋香姉ちゃんのコト、ずっと大好きだから。」


まだ両親が必要であろう時期の子供達なのに。

その健気な言葉に、ついには父親までも涙腺が緩んでしまった。


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