双子月
「美喜麻呂様、美喜麻呂様…
…帝様!」

「ふぁ~、どうした?
騒がしい」

「また寝ておられましたね?
公務中でございますよ」

「寝てなどおらぬ!
少しノンレム状態にトランスしていただけじゃ」

「それを寝ていると言うのでございます!
美喜麻呂様はこの『平安区』のトップでいらっしゃる事をお忘れ下さるな…
今、大変な状態にあるというのに…」

「大変な状態?
何か面白い…
いやいや、どうしたというのじゃ」

「今、面白いと言いかけませんでしたか…?」

「何を言う!
余のこの一点の曇りもない、平安区を守りたいという気持ちがそちには伝わらぬのか!?」


「…いえいえ、失礼致しました…
実は、大変な状態というのはですね…
最近、この平安区への密入区者が後を絶たないのですよ」

「どういう事じゃ?
間者(スパイ)が増えたとでもいうのか?
特別、今この平安区には何も問題はないはずじゃが…
先々代からの敵国、イングランド区ともギリギリの均衡を保っておるし…
何か怪しい動きでも見られるのか?」


「いえ、間者につきましては、どこの区においても有り得る事で、多少の事なら暗黙の了解で目を瞑っております…
ただ今回は、この二~三日でありとあらゆる区から、身分問わず男の密入区者が増えているのです
もう警備の者だけでは抑えきれず、どのくらいの人数が我が区に忍び込んだか把握しきれていない状態です」

「ここ二~三日で男ばかり…?
密入区といえば、差別を受けやすい女の方が他区へ逃げ込む事が多いだろう?
何じゃ、我が区で相撲大会でも行われるのかのぅ
一緒に見に行くか?」

「美喜麻呂様!」

「相変わらず冗談の通じない秘書じゃ…
で、原因は分かったのか?」

「はぁ、それがですね…」

「何じゃ、もったいぶって…
さっさと言わぬか」


「実は、この平安区の山沿いに暮らす竹取の老夫婦の家に、それはもう目も眩むばかりの、日本国一と謳われる美女が住んでいるそうで…
国中にその噂が広がり、他区の男が一目見ようと、あわよくば手に入れようと平安区に密入区しているのです」

「な、何と…」


「いかがされましたか?
…嫌な予感がしますけど…」

「いかん、それはいかん!
是非とも保護せねばなるまい!
それこそ平安区トップの帝の義務じゃ、そうであろう?
さっそくその絶世の美女をすぐに我が城に招くのじゃ!」

「やっぱり…」


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