双子月
「美喜麻呂様、かぐや姫様が参内なさりました」

「おぉ、待ちくたびれたぞ!」

「お初御目にかかります、竹取のかぐや姫と申します…
以後、御見知りおきを…
帝様におかれましてはその御威光、平安区の隅々まで照らし輝く事この上なく、ワタクシめが住んでおります平安区の端までもその御名声が響き渡り、帝様の尊き御名前を耳にしない日はございません」


「ほぅ、余を前にして物怖じせず、中々のものじゃ…
確か竹取の翁は昔、平安区の中央で商売をしておったなぁ
今は隠居して南の端におるとか…
なるほど、貴族相手に商売をしていただけの事はある、礼儀作法を良く躾けてあるのぅ…
よし、気に入った
竹取の老夫婦のランクをBに上げよ!
これからの暮らしも保証するぞ」

「帝様の御好意、ありがたき幸せ…
両親に代わって御礼申し上げます」

「良い、良い、堅苦しいのはもう抜きじゃ
そちも扇子で顔を隠さずとも良いぞ
えぇい、御簾が邪魔じゃ、誰か御簾を上げよ!」

「なりません、帝様…
ワタクシのような卑しい身分の者と直に顔を合わせるなど…
それにワタクシは、まだ殿方に顔を許してはおりません」



「かぐや姫よ、さすが気位が高いものよ…
しかしその態度はいただけない…
余が直々に顔を合わせたいと言っておるのじゃ
そちには特別待遇をすると約束した
ゆっくりと寛いでいくが良い…
御馳走もたんまりとあるぞ」

「帝様、今日はこれにて退出させて頂きたくございます…
後日、改めて参内させて頂きます故…」

「何を…
卑怯な事はしたくないが、老夫婦の保証はせぬぞ?」

「両親にはワタクシからお詫びを申し上げます…
不出来な娘を持った老夫婦をどうぞ哀れみ下さいませ…
ワタクシはこの如何程の価値もない命をもってして、帝様にお許し頂こうかと存じます」

「分かった、分かった、早まるでない!
御簾越しで良い、今日はせっかく来たのだから楽しんでいかれよ」


「…承知致しました
それでは御言葉に甘えて…」

「おぉ、良かった良かった…
さぁ、馳走を持って参れ!
今日は特別に、タイやヒラメの舞踊りも見られるぞ」





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