双子月
この広いキャンパス内は、人人人でごった返していた。

外部からのお客さんがいる事も間違いないが、模擬店の数、売り子の数などを見ていると、いくらこの広いキャンパスと言えど、今までどこにこんな大勢の学生が潜んでいたのかと思うくらいだ。


「みっちゃん、3番テーブル新規のお客様お願~い♪」


「うぃーっす…」


「いらっしゃいませぇ、ご注文はお決まりで…す…かぁぁぁぁぁっ!?」


みっちゃん、いや、光弘は奇妙で高い裏声から一気に地の声に戻った。

開いた口が塞がらないとは、このような顔の事を言うのだろう。

一方、3番テーブルに座っていた朋香達は、声すら出なかったものの、光弘同様、開いた口が塞がらず、ポカ~ンとスコート姿の光弘を見つめていた。


双方、時が止まっていた。

いや、凍て付いていたのかもしれない。

もちろん、そんな沈黙を破るのはこの人。


「…ぷっ…」


一瞬、ポカ~ンとなったけれども、すぐに笑いがお腹の底から込み上げてきて、慌てて口を塞いだものの、結局漏れてしまった。

少し漏れたらもう同じ事。

真朝が1番乗りで我慢の限界を超えた。



「あ、あ、あははははっ!
に、似合ってるよ、そのスコート姿…
名札?
みっちゃんって言うの?
あぁ、もうダメ、死にそ~~…」


「そんなに笑っちゃ悪いわよ、他のお客様にも迷惑だし…」

と、珍しく、美穂も笑いをこらえた表情で言う。


「朋香!…ちゃん、どうして真朝ちゃんを連れて来たのかしらぁ?」

光弘の、天使のような悪魔の微笑みが怖い。


「光弘…じゃなかった、みっちゃん、写真撮らせて!」

「お客様、ご冗談が過ぎるとぶっ飛ばしますよ?」

次は真朝に極上の笑みで応えた。


「あのぉ…一緒に写真、写りたい…」


朋香が顔を真っ赤にして、おずおずと光弘のスコートの端を握った。


「えぇ~~~!?」


皆とても驚いたが、朋香が異様に可愛く見えた。

これには光弘もまいってしまった。


「はい、チーズ!」


キャッキャと撮ったばかりの画像をデジカメで確認する朋香達。


「お客様~、ご注文をお願いします~」


光弘は少しやるせない気持ちで仕事モードに戻った。





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