双子月
光弘は漠然と聞いていた。

もちろん、いつまでもこの楽しい時間が続く事はないと、思ってはいた。



普通のカップルのように、

『結婚したら犬を飼おうね、豆柴がイイなぁ♪』

『えぇ、俺は猫の方が好きなんだけど…』

『じゃあ、両方飼っちゃおうよ!』



なんて、未来設計図を2人で語り合う事もある一方で、就職先を考える時に、両親の地元に残って欲しいという願いや、自分の働きたい事を優先させたい想いや、朋香とのこれから先の未来についての不安が付き纏う事はある。

しかし、まだ大学2年生だし、時間はあると自分に言い聞かせるようにしていた。


真面目に向き合った事などないのだ。

けれど、今の話を聞いて思った。

自分の相手は、あの朋香なのだ。

時間がいくらあっても足りない。

このまま中途半端に時間だけが過ぎて行き、いざその時になったら、何もかもが上手くいかないような気がしてきた。


林先生はこの事が言いたかったのだろうか。


悩む光弘の顔を見て、

「ごめんね、君を困らせるつもりで言ったんじゃないよ。
ただ、朋香ちゃんとの関係が続くにあたって想定出来る事だから、1度、君に釘を刺しておきたかったんだ。

もちろん、僕がクリニックで出来る限りのフォローをしていく。
だけど、1番大事なのは、クリニックでカウンセリングを受けている時間ではなくて、日常生活の中でいかに上手く生きていくかなんだよ。
だから君に話をしたかったんだ。」


と林先生は光弘の肩に手を置いた。


「これから先、多くの困難が君達の前に現れる。
君が朋香ちゃんとそれらをクリアしていく覚悟があるなら、たまには君も僕の所に顔を出しにおいで。
出来る限りのアドバイスをしよう。
2人で来るのも良いね。」


光弘は少し安心した。


「この歳で君に他人の人生を背負わすような事を言って、覚悟だなんて言葉で追い討ちをかけるような真似をしてごめんね。
でも皆で一緒に頑張っていこう。」


と林先生は微笑んだ。


光弘も心強い味方が出来て良かったと思った。

やっぱり1度話しておいて正解だった。



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