PARADOX=パラドックス=
妹との記憶は少ない。
いや、ほぼ無いと言うのが正直な所だ。
それが何処であったかは定かでない。
白衣の男が2人。
まだ小さかった妹を無理矢理に連れ去っていく。
妹は泣き叫びながこちらを振り返り、何かを口にしている。
その時の妹の悲痛な表情とそして、あの儚い瞳。
音ではなく、何かがオレの頭に響いていた。
この地に住む人間は26年前のヒュージ落下以前の記憶が綺麗さっぱりと抜けている。
オレのこの妹の記憶は特例ともいえるのだ。
その一分にも満たない記憶が、この世界の命運をも動かすことをオレはまだ知る由もなかった。
バタンと戸が閉まる。
「くくくっ……はははは」
片手で顔を覆い笑い声をあげる。
そしてオレはその場所へと向かっていくのだった。
それがオレを波乱へと導いていくことも知らずに。