PARADOX=パラドックス=
そっとガラスの抜け落ちた窓から中を覗き込む。
倒れたテーブルにタンス。
床に散らばる本や服は泥まみれで、しかし何故かずっと使われずにいた様には見えなかった。
「……やはり、誰かいる」
部屋の中央に影がある。
しかしこの角度からでは、垂れ下がった天井が死角となって、人物を視認することができない。
「……かなり近づくことになるけど、あっちの窓からだったら」
向かい側の窓は半分にはくもりきった硝子がはめられているが、もう片方は硝子がきれいに抜け落ちている。
加えてその場所からなら死角となる障害物もそれほど多くはなさそうだった。
オレは更に奥にある窓へと移動していく。
この廃墟に近づく時よりも更にゆっくりと慎重に。
そして覗き込んだそこにいたのは、黒のスーツに身を包んだ小柄な男と、ひょろ長い男。
そして、その2人の前に座り身を縮める恐らく、女の子。
「ったく、これで何人目だよ!?」
「あっしが覚えている限りでももう八人目でがすな」
小柄な男はよくわからない語尾が鼻にかかる。
黒のスーツはくしゃくしゃでだらしのない印象だった、
「ったくよぉ……"ブレイグル"の女は価値があるって聞いたのに、こんなんじゃあ赤字だよ、赤字!」
"ブレイグル"?
聞いたことのない単語だな……
あの女の子を指した言葉だとしたら、人種や国籍の呼称か何かだろうか。
オレはより耳をすます。